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民話~司馬江漢の西遊日記

民話~司馬江漢の西遊日記

7月20日。雨。湯の山へゆこうと思い、一人案内の者を連れて菰野を出発。2里の道のり、まず1里をすぎて1里四方の原(江野)に出る。この原、秋になれば萩、桔梗、女郎花が花盛りとなる。山は土ばかりでなく石の砕けたるものも混ざり、色は赤く白い。それより谷川があって、川中に大石がいくつも転がる。水は石に触れて飛び流れる恐ろしいところ。その石より向こうの石へ飛び越えることもあり、落ちれば深い。あたり皆山である。2、3丁行ってまた同じような谷川がある。3つほど川を渡ってほどなく湯治場に到着する。

山あいに、10軒ばかりの旅館が建つ。 その中に湯屋がある。湯の湧くところは山の根にあって、湯は水のようで火で沸かす。入浴する客が多い。湯の山は近江の水口の奥、日野よりは山を越えてくるその道のり4里。その間、人家は無く渓流が3つあって狼や熊が住むという。すべてこの山中、家も少なく土もなく、石の砕けたるものにて野菜も作れず五穀も実らない。宿は橘屋という家である。蒼滝を見物しようと衣を着た出家を案内人に、山の桟道を歩み行く。下は深い谷、一方は山。その道は山に添い、いく重にも曲がる。この とき向こうより熊が来た。熊のほうもこちらもー向に知らず、桟道の曲がり角で熊に出合う。先に立つ案内の出家肝をつぶして衣の両方の袖をひるがえせば、熊も驚いて両手をあげて立ちあがる勢いであおむ けに谷底へ落ちてゆく。怖さにその後も見ず逃げ帰る。 また江戸屋という旅人宿があり、その主人が菰野へ行った帰り道、酒をのみ彼の1里四方の原にさしかかったとき、狼3匹が出て飛びか かる。主人、酔うた勢いで手に持つ棒でなぐり狼をなぐり殺す。酒というものはすざましい勇気を振るうもとになると話す。この江戸屋の主人、話をつづけ「うちの男衆、山仕事に参り、帰りに薪を背負うて くる後より狼がついてきて、この男は石を投げつけつつ歩いて宿に帰る。それより急ぎの用事に日暮れて菰野へ出るに、先ほどの狼、谷川の石に待っており、菰野へ行かず帰る」と話す。狼はとにかく背を見 せ避けることを恥じるものという。○注 わが国で初めて洋画を描き地動説を唱えた有名な司馬江漢という画家が天明8年(1788)丁月16日から23日まで菰野を訪ね、湯の山に遊んでいます。その中の20日だけを紹介しました。